「新緑の枯樹」 付録

13章出だしカット分


13章の出だしのところ、ガバッと(といっても原稿用紙5ページちょいですが)カットした分がこれです。結局ここのところを見捨てて、もう一度書き出したのが現行の13章です。現行の分を書き上げてから、もしかしたら入れた方がいいか再び迷ったりしましたが、やっぱり使わずにUPすることに決めました。入れたら間違いなく間延びしちゃいますので。でも、少しもったいないからここにUPしちゃいます。直しをしていないので、多少文章が変かもしれませんが、3人のやりとりを雰囲気だけでも楽しんでいただければ幸いです。


 結局、少しの仮眠をとっただけで、引き継ぎは昼過ぎまで続いた。すでに式典の準備が始まっているので、城内警備室へと向かう。まだリディアと話す時間なんて、少しも取れていない。
 でも、時間を取ってどうする? 今、俺の思いを言葉で伝えても、きっと口先だけにしか聞こえない。でも、言葉で伝えないで、どうしたら分かってもらえるだろう。
 城内警備室のドアを叩いた。どういうわけか顔を出したのはグレイだ。
「あ、やっと来た。入れよ。引き継ぎは終わったのか?」
「何とかな。サーディは? リディアもいないのか?」
 俺の問いに、グレイは上を指さした
「サーディは先に見てくるモノがあるとかで、五階の広間に行ってるよ。すぐ戻るってさ。リディアは本職ソリストのアテミアさんのところだよ。今日くらいはきちんと手順を踏まなきゃな。大きな式典なんだし」
「そうか」
 リディアは、もう式典の準備に入っているらしい。やはりまだ会うことすらできなさそうだ。思わずため息が出た。
「リディアと何かあったのか?」
 グレイに疑問を持たれたら、もう終わりだ。間違いなく全部ばれると思う。いや、そう思うからいけないのか。
「特に、なにも」
 とりあえず言ってはみたが、グレイはありったけの微笑みを浮かべて、大きく三度うなずいた。
「そうか、よかったな」
 やっぱりバレてる? でも昨日の昼からまわりがなんだか妙な反応をしていることまでは知らないらしい。
「よかったって、なんでそうなるんだよ」
「いや、リディアがさ、俺にフォースのことを話さなくなったからね。進展したんだなって思って」
「話さなくなった? ……話してたのか?」
 いきなりグレイは俺にしがみついた。ポンポンと背中を叩かれる。って、ちょっと待て。これじゃあ抱かれてるのと変わりない。
「お、おい、なにすんだ」
 グレイは俺を離すとケラケラ笑った。
「俺もお前が好きだぞ。こういうニブいところが特に」
「こういうって、どういうだよ」
「分かってねぇし」
 グレイはクククと含み笑いをしてから、俺と顔を突き合わせた。
「相談にのってたんだよ。フォースのことをフォースには相談できないだろ。なんだかお前ってば勘違いしてたみたいだしさ、飛び降りてあのまま死なれたら化けて出られると思ってビビったよ」
「……出ねえよ」
 俺が返せる言葉は、それくらいしかなかった。話さなくなったって、単にどうでもよくなったのかもしれないとは思わないんだろうか。俺には、本当に隔離でもされているように思える。いや、隔離ならまだいい。単に避けられているんだとしたら。
 バタっと音を立てて、いきなりドアが開いた。サーディだ。
「来てたのか」
「ああ。少し前に」
「鎧見たか?」
 言われて部屋を見回すと、ドアの右に布をかぶったそれらしきモノがある。
「着とけよ」
「え? もう?」
 驚いてサーディを見やると、ニヤニヤと笑ってこっちを見ていた。
「もうって言うほど早くないぞ。式典は、じき始まる。出番もすぐだ」
 ハイと返事をしようとしたが、ため息しか出てこない。グレイは含み笑いをしているが、たまに笑い声が漏れてくる。俺はしかたなく鎧の側に立ち、かぶせてあった布を取り去った。
 そこにあった鎧は完全に様変わりしていた。古典的な形から、今着ている鎧と変わりないくらいに作り替えられている。その上、持ち上げてみると意外に軽い。
「これ……」
 呆気にとられている俺に、サーディは、微笑を向けた。
「お前の普段の鎧を作ってる職人に、サイズまで合わせて直させたんだ。これなら、飛び降りる前に捕まえられるだろ」
 サーディのイヤミは、まだ止まっていない。しかたがないとは思うが、当分言われ続けると思うと気が重くなる。
「それにしても、サイズまで合わせなくても」
 騎士連中の中では、俺はわりと華奢な方だ。鎧を俺に合わせてしまったら、着られる人間が限られてしまう。
「二位の騎士ってのは城都と前線との行き来が激しいだろ。どうせなら行事に合わせて帰ってきてもらうことにしたよ。とりあえず次は一ヶ月後、妹の誕生日な」
 サーディは、満面の笑みを浮かべながら言った。
 俺は、鎧の重量以上に、気が重くなった。



こんなモノをUPしてどうすんだって気がしないワケじゃないんですけどね。
ついでに、しばらくはこの壁紙で公開していたという記念に壁紙も残しておくのです。