「Gate of Glasstolia」 風音飛空鳥様より


†初めてのケンカ†


「…もうっ! カインのバカっ! もう知らないッ!!」
「サラ、待てよ! 待てってば!!」
いきなり、宿屋から水色の長髪をポニーテールに束ねた少女が飛び出してきた。
彼女の名はサラ・ブイ。サラは涙を流しながら、逃げるように駆け出していく。

「…はぁ…」
一方、彼女の飛び出した宿屋の中で、ため息をしているものが一人。
緑色の長髪をうなじで束ねた青年である。彼の名は、カイン・ヴィクトリィ。
サラと口論していたのは、他ならぬ彼である。

口論のきっかけは、些細な事であった。食事中の談笑の最中、サラがカインに言った一言。
「ねぇカイン、明日って…何の日だか、覚えてる?」
「明日か…もちろん覚えてるよ。焔群(ほむら)の曜日でしょ?」
カインは軽い気持ちで、曜日に関することを返答した…つもりだった。しかし。
サラはカインの答えを聞いて、悲しみと怒りの混じったような表情を浮かべて。
「…ねえカイン、本当に、明日何の日だか覚えてないの?」
「どうしたんだよサラ。たかだかそんな事で…しつこいぞ」

ガタンッ!!

怒りも顕に、まさしく憤怒の表情でサラは立ち上がった。
勢い余って彼女の座っていた椅子が倒れてしまったほどである。
「バカッ! バカバカッ! カインのバカッ! 唐変木! 鈍感! 最っ低!!」
サラは怒りながら、そして瞳に涙を溜めながら、カインに怒涛の如く怒号と罵声を浴びせる。
「…なんなんだよ、いきなり! 明日が何なのか判らないだけで! いい加減にしろよ!!」
カインもサラから浴びせられた唐突の罵声に困惑しながらも反論する。
そして…冒頭に至る、と言うわけである。

陽が少しだけ傾いた午後の昼下がり。サラは、街を見下ろせる丘に腰掛けていた。
その表を隠し、泣きじゃくりながら。
「カインの…ばか…」
カインと口論した事が未だに尾を引いているようである。
不本意とはいえ、勢いとはいえ。
カインに対してあそこまで罵声を浴びせた事なんて、今まで一度も無かった。
しかし、である。自分にとって、特別な日である明日の事を忘れていたのはやはりショックを隠せなかった。
「明日…私の誕生日だったのに…一緒にお祝いして、美味しい物、食べたかったのに…」
そう。翌日の一角獣の月の8日。正しく彼女の誕生日だったのだ。
カインはその事を覚えているか、ただ単に聞きたかっただけなのだ。
「…カインに、謝ってこよ…。そして、きちんと話そっと…」
サラがその決意を顕にした時。

オォォォォ…ンン─

遠くから、地鳴りのような音。反射的に街に眼をやると、街から煙が上がっている。

「…!! 急がないと…!!」
サラは涙を振り掃い、街へ向かって駆け出した。
(カイン…ごめん! 謝るの、後まわし!)

サラが街に駆けつけると、至る所から火の手が上がっていた。
「水よ!」
サラは刹那に気法で水を生み出し、燃え盛る炎に水を浴びせて鎮火して行く。

ヴヴヴヴヴヴヴヴ…!

ふと、羽音に似た音が聞こえる。
周囲を見回すと、巨大化した赤いトンボの頭部と尾をトカゲに挿げ替えた様な生物が群れを成して現れた。
火蜥蜴蜻蛉(サラマンドフライ)である。
火蜥蜴(サラマンド)の名の示すように、口から高熱の火球を吐き出して獲物を仕留め、捕食する習性を持つ。
また、必ず30匹近くの群れで行動し、時には人家や集落を襲う獰猛さを持つ。
そのため、一般人にも用心がなされている。

「あなた達なんかに、これ以上街は壊させない!」
サラは火蜥蜴蜻蛉の群れに向き直り、愛用の槍を構える。
「ヤアァァッ!!」
身構えると同時に槍を身近な一匹の腹部に突き刺し、そのまま槍を上に振り上げ、縦に薙ぐ。
腹部から頭部までを両断され、斬撃を受けた一体は力なく地べたに落ちる。

「飛水針翔(スプラッシュ・ニードル)!」
サラは水の気法で多量の水の針を生成し、投げ放つ。
放たれた水の針は5〜6匹ほどの火蜥蜴蜻蛉に容赦なく降り注ぎ、その肉体を穿つ。

しかし、水針に穿たれた個体も弱りはしたものの、まだ力尽きてはいない。
「爆水泡(バブル・マイン)!!」
サラは再び水の気法を発動させ、今度は数個の水泡を発生させる。
生み出された水泡は、ゆっくりと先ほど弱らせた群れの方へ向かっていく。

ギシャァァァァッ!

苛立ちを覚えた一体が、水泡へ向けて火球を吐き出す。水泡を撃ち落すためであろう。
しかし、水泡に火球が接触したその刹那。

ドパウッ!!

いきなり水泡が炸裂し、その中に封じられていた大量の高圧の水と衝撃波が火蜥蜴蜻蛉に襲い掛かる。
その炸裂を至近距離でもろに被った数体が、完全に力尽きて地べたに落ち、腹部をぴくぴくと痙攣させている。
短時間の攻防で群れの一部を撃破され、さすがに火蜥蜴蜻蛉たちもたじろいだのか、一旦サラの元から離れる。
「待ちなさい!」
無論、サラもそれを追う。そして火蜥蜴蜻蛉たちを追いかけながら、サラはある事に気づいた。
(変ね…襲ってきた群れの大きさの割には、街の被害が少なすぎるわ)
無論それは本来喜ぶべき事なのだが、サラは一抹の不安を覚えていた。
そして、逃げた群れを追いかけ始めた刹那。

ギシャァァァァ!!

いきなり横手から一体の火蜥蜴蜻蛉が現れた。今にも火球を吐き出そうとしている。

「…!」
息が詰まるサラ。そして、火球が吐き出される。自分に向かってくる豪炎の塊。
世界がスローモーションになり、それが自らの肉体に吸い込まれるのだ、と認識した刹那。

「サラ、危ない!」
不意に聞き覚えのある声が聞こえたと同時に、後ろから人が覆い被さる感触を覚える。
「熱…ッ! っく…風矢撃(エア・アロー)!!」
苦悶の声と、風の気法を発動する言魂(ワード)。
その直後に、気法によって生み出された風の矢が今しがた火球を吐いた火蜥蜴蜻蛉を射抜く音が聞こえる。
サラは、自分に覆い被さった人を見て、声が詰まる程の衝撃を受けた。
「カイン!!」
そう。彼女を庇ったのは、他ならぬカインであった。
しかも、今の火球を受けたのか、左肩から背中にかけて火傷を負っていた。

「サラ…無事? 怪我は…ない?」
痛みを堪えて、無理に笑うカイン。
「…うん、大丈夫だよ」
そんなカインを見て、サラは瞳に涙を浮かべながら、気丈にも笑って見せた。
「でも、早く治療をしないと…!!」
「それより先に…あいつ等を駆逐するのが…先だよ…サラ」
カインは荒い呼吸を整え、ゆっくりと立ち上がる。サラもカインの言葉に無言で頷く。そして。

半刻後。街に上がった火の手は完全に鎮火され、街を襲った火蜥蜴蜻蛉の群れはカインとサラによって完全に駆逐されていた。
カインとサラは、先ほどサラが佇んでいたあの丘にいた。向き合う二人。そして開口一番。
「…カイン」
「…サラ」
『ごめんッ!!』
お互いに、謝りあう二人。
「カイン、本当にごめんなさい。勢いでとはいえ、あんなヒドい事言っちゃって…。
それに、私を庇って…そんな火傷までして…本当に、ごめん…」
「いいんだよ、サラ…それに、今回のケンカの発端。どう考えても、俺なんだし。
俺が…サラの誕生日を知ってる事、変に隠さなきゃ良かったんだ」
「えっ…」
豆鉄砲を食らった鳩の様な表情になるサラ。それもそのはずである。
今まで彼女は、カインが自分の誕生日を忘れた、若しくは判らなかったと思い込んでいたのだから。
それが、カインのちょっとしたイタズラ心が働いて、惚けられていたと判ったのだから。
「もうっ…カインのバカッ!!」
今度は、思わず笑顔で出た言葉である。
「でも…ありがと。とても嬉しいわ」
サラはカインに微笑みかける。カインもサラに微笑み返す。
そして。

カインは、

サラに、

口付けを送った。

「ちょっと早い誕生日プレゼントだけど…明日、一緒に買い物に行こう?
その時に、改めてプレゼントって事で」
「うん、今からすっごい楽しみよ、カイン!
でもその前に…今のプレゼント、もう一回貰っても…いい?」


                F I N
Copyright©2007 Kain Victory All rights reserved.




†作者後書き†
一見さんはハジメマシテ。おなじみさんはおはようございますこんにちはこんばんわ。(区切れよッ!!)
風音飛空鳥(カイン・ビクトリイ)と申します。
今回、この小説は柚希さんのサイトと当方サイトの相リン記念としてリクエストを頂いた小説です。
テーマとして、ケンカ〜仲直りと言うテーマリクエストを頂いたのですが。
実は今までこういったシチュエーションでのストーリーを考えた事が無かったので、書いてて凄い新鮮でした。
ただ、初めて書いたのであまりメチャクチャにしたくないって気持ちもあったので、内容としては結構ベタになっちゃったかな…と少し反省。
けどその分、自分の書きたい事をそっくりそのまま詰め込んで書けたから、それはまあ満足です。
で、今回ケンカさせたこのカイン君とサラちゃんのカップリングなんですが。
当方小説の主人公&メインヒロインだったりします。
では何故ケンカさせたかと言うと。
単純に、作者自身この二人のケンカを描いてみたかったと言うのが本音です。(苦笑)
いっつも歯痒いくらいのラブラブッぷりを振りまいてる二人なので、いっその事ケンカさせてみたらどうだろう、と…。
まあ、仲直りの時はメチャクチャ甘々な状態になりましたが。(というか、させましたが/核爆)
感想等あれば、是非とも風音飛空鳥にお声をかけてください。
好評、批評、辛評、どんな意見でもきっちりと受け止めさせていただきますので。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−☆
ども。柚希です。風音飛空鳥様より相互リンク記念でいただいた短編です。
後書きまでつけてくださったのです。すっごい楽でいいですねぇ♪ >ぉぃ;
自分で書いたケンカのお話が心理戦になってしまったので、違うパターンが読みたくてお願いしちゃいました。(^ ^;)ゞ
私の方からは、……、何も送っていないのですよね、これが。(・ ・;))。。オロオロ。。''((;・ ・)


ラブラブカップル持ちの仲間なのですよv
風音飛空鳥様のサイトはこちらです。↓