― 道、半ば。 ―


 我々高雅な猫族は、その骸を人に見せることなく消えなくてはいけない。
 死が近づいた今がそうだ。当然俺も一匹の猫として気高くありたい。抜け出せると分かっていて通ったことの無かった窓の隙間から外に出る。
 あばよ。毎日飽きずに同じ飯をくれるあんたが大好きだった。
 それにしても。人の知らないところなんてこの世にあるのだろうか。とりあえず、人で溢れかえっている街を背に歩く。もちろん猫族として胸を張っている。誰も俺がもうすぐ死ぬなんて思いもしないだろう。
 身体が辛い。だが、人家が減り、人とすれ違うことがなくなっても、この姿勢は崩すわけにいかない。どこかで誰かが見ていて、あんたの耳に入らぬとも限らないからな。
 いつしか道もなくなり、目には地平線だけが見えていた。いや、正確にはそれだけじゃない。赤い逆三角形の標識が一本、真ん中に立っている。俺はその標識に向かった。
『止まれ』
 いやあの、どうしろと。ため息をついて落とした視界に、白く四角い看板が入ってきた。
『この先、地面無し』
 納得。
 どうやら俺も野生のカンってのを持っていたらしい。それとも導かれたのか。ってことは、あんたの言う神様も本当にいるのかもしれないな。だったらきっとまた会えるだろ。今までみたいに遊んでやるよ。
 そう思いながら踏み出した足は軽く。心地いい花の香りが鼻孔から入り込み、俺を満たしていった。