レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
     4.表裏

 幾分荒い息で呪文の唱読を終え、マクヴァルは顔をめた。シェイド神が発した、シャイアの戦士よ、という声が、まだ頭の中に響いている。
「シャイアの、だと?」
 既に契約を済ませているという意味だろうその言葉で、マクヴァルはフォースへの敵対心が増幅してくるのを感じていた。
「ならば、それなりの対処をせねばならんな」
 視線を落とした先の黒曜石でできた鏡を、のぞき込むように見つめた。
 今はマクヴァルの引きつった表情を写し込んでいるその奥には、長い年月をかけてたくさんの命が閉じこめられている。その中には神の守護者の老人も含まれる。
 その老人からこの時のために、呪術で対処法を引き出してあった。今回のことはフォースがシャイアの戦士だったと分かっただけのことだ。何も慌てることはない、前もって考えていた対処を実行に移せばいい。
 詩で影と例えられる自分の存在にとって、敵となりうるのは戦士だけである。実際他の人間は、一人ずつしか対処はできないものの、るのも殺傷も神の力で自由にできる。
 じなければなるまい。マクヴァルは気持ちを落ち着けようと、一つ大きく息をついた。
 戦士としての契約を破棄させるためには、戦士が身に着けている媒体を処分すればいい。シェイドの戦士にするには、血を身体に入れればいい。それが叶わなかった時は、亡き者にしてしまえばいい。
 神の力を有効に使えば、戦士が持っている媒体を奪うことくらい、なんら難しいことではない。人知れず神の力を使うためには、少し出歩いてもらった方が都合がいいだろう。現在の幽閉されている状態よりは、神の力で操る人間を、怪しまれることなく近づけることができる。
 そしてフォースを自由にすることで、もう一つの利益を得るための準備をも進めることができるのだ。それも目的のためには非常に有意義で重要だ。
 マクヴァルの胸の中、身動きのとれないシェイド神が、ドクン、と鼓動のような抵抗を見せた。だがマクヴァルは、シェイド神の動きが脈の一つを感じただけのように取るに足らないモノに思え、薄い笑みを浮かべる。
 戦士を我がモノにしたら内包する神の力で操り、その一生を駒として有意義に使わせてもらう。
「あなたの戦士にするのですよ。近いうちにもう一人、お仲間も増えます。嬉しいでしょう?」
 胸に手を当て、身体から逃れられないでいるシェイド神に、マクヴァルは勝ち誇ったような笑みを見せた。

   ***

「アレを相手にすると、まったくもってストレスが溜まる」
 フォースを幽閉している塔に向かいながら、アルトスはジェイストークに言った。ジェイストークはノドの奥で笑い声をたてる。
「黙っていればいいのに、言い返すからだ」
「何を話していても、わざわざ逆説を持ち出してくる。言い返したくもなるだろう」
 そう返してから、ジェイストークとはフォースとするような言い合いをしたことはなかったと思いつく。どんなことでも吸収し切ってしまうジェイストークが、アルトスには不思議でもあり、ましくもあった。
「どうしたらいいんだろうな」
 塔の入り口まで来た時、ジェイストークはポツリとそう口にした。何のことかとアルトスが視線を向けると、ジェイストークは小さくため息をつく。
「レイクス様は、シェイド神と直接話しがしたいと申される。父も巫女が先だと譲ってはくださらない」
「板挟みといったところか。だが、どうもこうも事実は事実だ」
 どちらかに反発を表明するのは、ジェイストークにとって不本意なことかもしれない。だが、これは避けられそうなことではなかった。アルトスは、横を並んで歩いていた硬い表情のジェイストークに、両手を広げて見せる。
「マクヴァル殿がおっしゃるのだ、巫女を差し出す以外手はないだろう。マクヴァル殿は最高位の神官であり父君だというのに、信じられないのか?」
 ジェイストークは一瞬眉をしかめたが、意を決したように足を止め、アルトスにまっすぐな視線を向ける。
「最高位の神官と父は別人なんだ」
 いたジェイストークの言葉に、アルトスは眉根を寄せた。
「なにを言っている? どういう事だ」
「母と婚姻関係にあった父は、むしろ宗教を嫌っていたんだよ」
「なんだそれは。二重人格とでも言いたいのか?」
 アルトスの問いに、ジェイストークは力なく首を横に振った。
「そうなのかもしれない。それが一番しっくりくる。とにかく、神を崇拝する今のマクヴァルという人格は、母の夫だった父とは違うんだ。母は信心深い人だったから、父を愛すると同時に、アノ人に対しては敬慕の情を持っていた。俺は幼かったから、疑いもせず単純にそういうモノだと思っていたんだが」
 まっすぐ視線を合わせていたアルトスに苦笑してみせると、ジェイストークは視線を落とす。
「エレン様との成婚の儀の時だ。アノ人は母にその内容を口にした。当然母には衝撃だっただろう。父が他の女性と、というのもあったろうし、神は母のために存在しているのではないと、ただ一人、信仰の対象から外されたような気持ちになったらしい。精神を病んで死んだというのはそのせいなんだ。母が死んで以来、母の夫だった人格は出てこなくなった。まともになったと言うべきかどうかは分からないけれど」
 ジェイストークが自嘲するように息を吐き出す。アルトスはジェイストークの顔色の悪さに眉を寄せた。
「今まで、なぜそれを言わずに……」
 視線を上げたジェイストークは、アルトスの心配げな顔に笑みを向ける。
「俺には、手放しで父を信じてくれている人間が必要だったんだ。それがアルトス、お前だった。エレン様は本当に優しいお方で恨むこともできず、エレン様もまた被害者だと思ったら、教義が偽善に思えて」
「神はすべてに対し平等に愛を注ぐ、か」
 教義の一部を口にしたアルトスに、ジェイストークはうなずいた。
「アノ人はまた繰り返すつもりだ。母のような立場の女性はいないが、やはり納得はできない」
「成婚の儀は、マクヴァル殿ではなく、シェイド神がなさっていることだろう」
 アルトスの言葉に、ジェイストークはほんのわずかな笑みを浮かべる。
「父のためにはそうだと思いたい。でもレイクス様が宗教は人のものだとおっしゃっていたことが、嬉しかったのも事実なんだ。母を見捨てたのは、神ではなく人だと。ならばまだ、母の魂も救われるのではないかと……」
 ジェイストークにとって成婚の儀は、信仰心を根底から揺るがされる出来事だっただろうことは、アルトスにも簡単に想像がついた。どちらかを取ると、もう一方を否定したことになる。それでもジェイストークはひたすらマクヴァルを信じてきたのだと、アルトスの目には映っていた。
「最近、母を見捨てた父よりも、エレン様のご子息であり、敵国でさえ身命の騎士とうたわれるレイクス様の方が、よほど神に近い存在に思えてな」
「それは神の守護者の一人なのだから、ある程度は近く感じるだろうが」
 アルトスは言葉を切ってため息をついた。しげにのぞき込むジェイストークに、アルトスは顔をしかめて見せる。
「あれは純粋で愚直な、ただの子供だ」
 そう言い放ったアルトスに、ジェイストークはノドの奥でククッと笑い声をたてた。
「確かにな。だが、目の前で母を殺され、粗野で下卑た騎士や兵士と喧嘩をしながら剣を覚え、十四で騎士になると同時に前線に出され。それでもなお純粋で愚直なんだぞ? ……、それにしても、愚直というのは語弊があるな」
 口にしづらかったためか、ジェイストークの笑みが苦笑に変わる。押し黙って聞いていたアルトスが重い口を開いた。
「曲げられない意志があったか、もしくは……」
 言いんだアルトスを急かすように、ジェイストークは真剣な視線を合わせてくる。
「もしくは?」
「バカなんだろ」
 そう言って視線を逸らしたアルトスをキョトンとした顔で見て、ジェイストークは気の抜けた笑みを浮かべた。
「結局それか。いや、そういうまっすぐなところは、アルトスにもあるって思っていたんだけどな」
 アルトスはブッと吹き出し、ジェイストークに胡散臭げな視線を送る。
「おい。一緒にするな」
「まっすぐは一緒でも、向きは正反対だ。違うって事にしておくよ」
 ジェイストークは、さらに文句を言いたそうなアルトスを放って、塔の中に入っていった。アルトスも後を追う。
「で、どうするんだ?」
「しばらく様子を見て、二人を会わせる方向で考えてみようと思ってる」
 チラッとだけ振り返ると、ジェイストークは先に立って階段を上りはじめた。アルトスはその背中に声をかける。
「いいのか?」
「いいも悪いも、それで父が困ることはないとハッキリさせたくてね。レイクス様が持っている疑問を晴らしたいのは俺も同じだし。偶然を狙えば、難しいことではないだろう」
 前を行くジェイストークの足の運びが、アルトスには軽くなったように見えた。
 もしもシェイド神が会うことを避けているのなら、偶然を狙っても会うことは叶わないだろう。何ら支障はない。ならばジェイストークの思うようにやってみればいいと、アルトスは思った。
 階段途中にいる見張りの騎士二人と敬礼を交わし、さらに上へ行く。突きあたりのドアの前にも二人の騎士が警備についている。左右に避けた騎士の間から、ジェイストークがドアをノックした。
「ジェイストークです」
 少し間があって、どうぞ、と気の抜けた返事が返ってきた。ジェイストークは笑みを浮かべると、ドアを開けて中に入る。アルトスは一瞬迷ったが、結局後に続いた。
 フォースはベッドにうつぶせになり、南側の窓の方に顔を向けていた。ジェイストークは部屋の真ん中まで入っていく。
「お疲れでしたら、また後ほどいますが」
「いや。かまわない」
 フォースは身体を起こし、ベッドの端に座り込む。その時アルトスと目が合ったが、フォースは無視するようにジェイストークへと視線をやった。
「警備、増やしたみたいだな」
「今回の首謀者達は、偶然に配置が揃ってしまったようです。単純ですが、増やせば揃わないですし、余計な話しもできなくなるでしょうから」
 ジェイストークの笑みを見て、フォースは顔をしかめ、ホントかよ、と一言つぶやいて視線を落とした。ジェイストークに苦笑を向けられ、アルトスは口を開く。
「首謀者達がお前の暗殺のために、陛下を亡き者にしてお前に王座に就かせようという民を誘い入れたようだ」
「説明されなくても、それくらいは。本気でバカだと思ってんだな」
 フォースが返した言葉に、アルトスはフッと鼻で笑って南向きの窓に向かった。背中にフォースの舌打ちが聞こえる。
 ジェイストークの、黙っていればいい、という言葉は確かに間違いではないことを、アルトスは最初から理解していた。ただ、それを分かっていてなお、我慢できなくなり口を出してしまうのだ。
 ジェイストークはその我慢を分かっているのだろう、話しをるように口を開く。
「それとですね。処刑は延期にするとのことでした」
「ホントに?! って、なんだ、延期か」
 フォースが本気でそう思っているのかと思うと、アルトスにはため息しか出てこない。
「それだけでも凄い変化ですよ。彼らに話を聞きたいと陛下がおっしゃってまして」
 黙って聞いているとイライラしてくる。ストレスが溜まるのは同じだ。
 ならば関わらないようにと窓の外に意識を向けると、ふと何かが足りないような感覚に襲われた。それがなんだろうと眉根を寄せて首をひねると、おい、と背中にフォースが声をかけてくる。面倒だと思って無視していると、後頭部にバフッと枕が当たった。アルトスは振り返ってその枕を拾い上げ、思い切りフォースをみつける。
「なんだ」
 アルトスの声に、思わず怒りが含まれた。フォースはひるむことなく、まっすぐ視線を返してくる。
「呼んだら返事くらいしろよ」
「だから最初の用事はなんだと聞いているんだ」
 アルトスは、返された言葉を無視して問い返した。トゲのある声に、フォースは顔をしかめる。
「用事なんか無い。部屋に入ってきてのんびり外を眺めてるなんて、いったい何しに来たんだ」
「俺はお前の護衛だぞ。状況を見ておきたい時だってある」
「地面のない空間のか」
「そうだ」
 言い切ったアルトスに、フォースは冷ややかな視線を向けて冷笑した。アルトスが枕をベッドに戻すと、フォースは視線をそらすようにフッとそっぽを向く。ジェイストークは苦笑して肩をすくめた。
「よろしいですか? もう一つ大切なご報告があるんです」
 ジェイストークの言葉に、フォースは窓の外に視線を向けたまま、どうぞ、と簡単に返事をした。その声を聞きながらアルトスはドアの側へと移動し、その横の壁に背を預ける。
「城内に限っては、ご自由に出歩かれても良いとのことです」
 その言葉にフォースは驚いて振り返り、ジェイストークをまじまじと見つめる。
「もういいのか?」
「一人で閉じこめておくより、たくさんの方と交流され、ライザナルのことを知っていただくのが近道ではないかと」
「トラブルの解決?」
 フォースはフッと吹き出すように笑った。
「割と甘いんだな」
「レイクス様が大切なんですよ。この事態に陛下は、レイクス様に守られたことや、レイクス様を推す人間がいるということを喜んでいらっしゃるくらいですから」
 笑みを崩さないジェイストークに、フォースが苦笑を向ける。
「やっぱりバカじゃないか」
 ジェイストークは、口を開きかけたアルトスに一瞬だけ視線を向けて制止すると、フォースに向き直った。
「レイクス様。そのようなことをおっしゃってはいけません。それとも陛下の愛情に照れていらっしゃるんですか?」
「は? な、なに言ってんだ」
 自分が言い返したのではなくても、フォースがうろたえているのを見るのは、アルトスには快感に思えた。
 これだけクロフォードに愛されていながら、フォースは未だに困惑を隠せずにいる。素直に受け入れることができないのがシェイド神との関係のせいだとしたら、こんなに馬鹿馬鹿しいことはないと思う。
「注意事項が一つだけあります。どんなときも必ず騎士を一人連れ歩いてくださいね」
 微笑んでいたジェイストークが、再び口を開いた。フォースはため息をつく。
「面倒だな」
「お前の腕じゃ足りない。逃げる可能性もあるしな」
 アルトス自身が思ってもいなかった、逃げるという言葉が口をついて出た。フォースの目が鋭さを増す。
「剣の相手をしろよ」
 そう返ってくるだろうと思っていた台詞そのままの言葉を聞き、アルトスは笑みを浮かべてうなずく。
「ついでにをしよう。俺が負けたらこれから先何度でも付き合ってやる。お前が負けたら、首から提げているそのペンタグラムをよこせ」
「は? やだ。断る」
 一瞬キョトンとしたフォースの顔が、ムッとしたように歪められる。その反応に、アルトスも顔をしかめた。
「なにが、やだ、だ。お前には剣を持つ誇りというモノはないのか」
「そんなモノよりコレの方がずっと大事だ」
 フォースは服の上からペンタグラムを包むように押さえる。アルトスは、胸に溜まっていた空気を、一気に全部吐き出した。
「バカかお前は」
 その反応を見て、フォースは自嘲するようにフンッと鼻を鳴らす。
「悪かったな。あんたの陛下に似てて」
「なにっ?! 剣を取って外へ出ろ。伸してやるっ」
 頭に血が上ったとアルトスが思った時には、に言葉が口をついていた。ジェイストークは、いつもと変わらない笑みを浮かべたままだ。
「きちんと防具を着けてくださいね」

   ***

 稽古だったのか、精神的な緊張をほぐすためだったのか。剣を合わせた後、テグゼルと何か話しつつ城へ入っていったフォースを見送り、アルトスはホッと肩を落とした。
 剣を合わせるだけなら何も考えずにいればいい。だが、怪我をさせてはならないので、異様に気を遣う。それでも最近は、フォースが腕を上げたことと無茶をしなくなったためか、少し剣筋の予想が立てやすくなっている。自分の腕を見極められただろうことに腹は立つが、有り難くもあった。
「お疲れ。アルトスを相手にしていると、さすがに腕も上がるようだな」
 そう言いながらも、まだ城の扉を眺めているジェイストークに、アルトスは、ああ、と返事をした。
「確かに噂通り、吸収する力は人一倍だ」
「若いってのは、それだけで力だよな」
「年寄り扱いするな」
 独り言だったかもしれないジェイストークのきにそう返して、アルトスは眉根を寄せる。
「それにしても、なんだアレは。落ち込んでいると思ったら、必要以上に元気じゃないか」
 そう聞くと、ジェイストークは吹き出すようにプッと笑った。アルトスは訳が分からずに顔をしかめる。
「いや、笑ってゴメン。確かに落ち込んでいらしたよ。元気になったのはアルトスのおかげだ」
 ジェイストークは謝っておきながら、まだ笑いをえている。アルトスが見せたしげな顔に気付き、ジェイストークが肩をすくめた。
「レイクス様は、アルトスとやり合ってるうちに、元気になられたようだった。剣だけじゃなく、言葉のやりとりも」
「余計なことをしたという訳か」
 アルトスが表情を変えずにフッと息だけで笑うと、ジェイストークは苦笑を返してきた。
「枕を投げつけるとはね。まさかアルトスに喧嘩を売る人間がいようとは思わなかった」
 ジェイストークの言葉に、アルトスはその時のフォースの様子を思い浮かべた。
 フォースが枕を投げてまで気を引いたのは、外を見るために邪魔だったからだろうか。あの窓は南向きだ、メナウルの方向に向いている。
 だが、そんなことで話しもしたくないだろう自分の気を引くようなことをするだろうか。もしかしたら何か他の意味があるのかもしれないとアルトスは思った。
 ふと、ジェイストークが視線を城へと向けた。その定まった視線の先を、イージスがうつむき加減で歩いている。
 その視線を感じたのか、イージスが二人に気付いた。きちんとした敬礼を向け、しかしどこか戸惑ったように視線をさ迷わせる。いつもと違う様子を不審に思ったのか、ジェイストークはイージスの方へと歩を進めていく。アルトスも後に続いた。
 側に立つとイージスは、幾分気の抜けたような笑みを見せた。
「お二人には伝えておいて欲しいと、陛下がったのですが」
 少し言い淀んだその言葉に、アルトスはジェイストークと顔を見合わせ、改めてイージスに向き直る。
「陛下とマクヴァル殿より、ルジェナへ行くようせつかりました。メナウルの巫女をお迎えする準備を進めておくようにと」
 イージスの言葉に、ジェイストークの表情が陰った。それを見たアルトスは、対照的に顔色を変えず口を開く。
「お迎えというのは」
「ええ。同意を得られた時と、……、拉致の場合も含まれています」
 それに対してどんな心情を持ったものかと、アルトスは迷った。だが、クロフォードの気持ちは手に取るように分かる。
「陛下はレイクス様を失うのを怖れていらっしゃるのだろうな。予防線の意味も兼ねてといったところか」
 クロフォードが思っているだろうことを口にして、自分はフォースの気持ちを思いやって迷ったのだということにアルトスは気付いた。
 いつの間にか、自分の一部がフォースを信頼し始めている。少なくともどんな状況になっても逃げるわけなどないと、気持ちはしっかり確信していた。イージスが言い出しづらかったのは、その信頼に気付いていたからかもしれない。
「レイクス様には、ご内密にお願いします」
「言えるわけがない」
 イージスの言葉に即座に答えながら、アルトスは自分の感情をわしく思っていた。